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▶アカシックレコード(小西)

《カテゴリ:模型ジオラマ

レッズ・エララとは滅びゆく未来の世界である。

その真ん中くらいに生きた(死んだかどうかは定かじゃないが)一人のちっぽけな男が、ある日交わした相棒とのいつもの会話。

時雨君は何気なく聞いた。
「エヴィル君はどこで、というか誰に魔術を教わったのかな」
「老人?」
「疑問形で返すのは何か違うと思う」
「いや、ホントに分らんのだよな。正確に言うなら、時雨君に聞かれるまでアレについてどうこう考えたことがなかったというか」

「珍しい。こんなに素直に分からないって答えるエヴィル君」
「分からんのではなくて意識してないんだよ。
…あー、うん。誤解が生まれないようにどういうものだったか説明しよう」
「なかなかミステリーじみてきてる気もするから、手短に分かりやすくかいつまんで」
「実のところ、俺様が自分の記憶というか意識、自我を認識してるのは、それこそ『全てを知った』時からなんだよな」
「うん、わからない」

「曖昧な言い方になるのが非常に不本意ではあるが。
多分、俺様、さっき言った『老人』が住む塔になんだかんだで連れてこられた…んだろう。
で、それは魔術師だったらしい。なんか色々実験の手伝いだとか、魔法陣の記述とかをしてた気がする」
「じゃあその人に魔術を教わったんだから、その人が師匠ってことでいいんじゃないの?」

「いや、違う。それは間違いない。
というか、うん、結局基礎術式の何たるかもそれからは聞いてない。
で…あぁ、そうだ。『その日』俺様が『老人』に聞いたんだ。
『最も強大な黒魔術とは何ですか』ってな。なんでそんなことを聞いたのか我ながら分らんけども」
「ふむふむ。それで?」
「したら、そいつ、俺様の右手をとって、97節の呪文を唱えた。勿体つけてたのかもしれんけど、ちょいと遅い発動の後、俺様の右腕が白い塩になって崩れ落ちたんだな」
「おっと、予想外の展開」
「『これが黒魔術の奥義、<分解>じゃ。全ての存在は存在を構成する塩にまで微細分解される。これを上回る破壊はない』って言いきった後、残った肩の傷口から血がドバッとな」
「まぁそうなるよね」

「俺様大絶叫。うずくまりもせずに倒れた」
「あー、これはまずいね。
エヴィル君の言う通りなら、その時止血できるような魔術は覚えてないわけでしょ」
「『誰が助けてくれたのか』っていう発想にならないところが流石だな。
で。その『老人』も部屋を出てったから、俺様一人で血の海で溺れかかった。
ただ、その時、『死ぬ』とか」

「『溺れる』とか思ってなかったなー。
考えてたのは、『なんで塩になるのか』だった」
「おぉ、流石エヴィル君。ズレてるね」
「さよか?
とはいえ、そう思ったし、気になったんだから仕方ない。『あぁ、でもこのままだと死ぬな』ってその後思って、死んだら理由がわからんから困る。じゃあどうするかなって思って、とりあえずさっきの97節を反転して唱えてみたら右腕が戻って」
「えー、そんな簡単にいくー?」
「ふつうは無理。だが幸い、まだ『名残』があったんで上手くいっただけだな」

「ふむふむ。じゃあそれが魔術の目覚めって事になるのかな?」
「確かに目覚め、になるなー。だがそれだけでは『今の俺様』にはならないというかつながらない」
「じゃあ改めて『老人』とやり取りがあって?」
「いや?
というか、『老人』よりなによりも俺様は『人を分解したら塩になる』ってのが気になってな」
「細かいなー」
「まさにその『細かくする』ってとこに囚われた。本当に人は塩でできているのか。もし塩で出来ているのなら、『更に塩を分解したらどうなるのか』」
「…それでどしたの?」
「とりあえず、さっきの<分解>を更に試してみた。…色々あるんだが、過程を端折って最初の結論から言うと、人は塩にはならない。ただ、『老人』の<分解>の式では『塩に似た白い粒子』に細分化しているだけでな」
「どっちかというと『変化』だったんだね」
「だなー。
で、そうなるとだ。これは最強の黒魔術とは言えないと思ったんだよな」
「変えてるだけだしね。破壊の究極、ではない気がするー」
「なので俺様、もっと分解できないか試してみた」
「どうやって?」
「本当に<分解>する術式を組んだんだな。幸い、資料になる書や巻物は腐るほどあったし」

「勉強してなかったんじゃなかったっけ?」
「『目覚め』たんだろうなぁ。
ひとまず、とっかかりになる97節の呪文が激痛で一気に頭に焼き付いて、そこからそれをキーにして拡大解釈…まぁ結果的に読めるようになったんだわ」
「ショック療法こわー」
「で、とりあえず第一段階の<分解>は完成。人に限らず全ての物体を<分解>しまくった結果、"素"まで分解できた」
「"そ"」
「俺様が名付けた便宜的な名称だが、これ以上は分けられない」
「へー。私の」
「落葉でも無理だろうな。なんせ落葉の刃の薄さよりも小さい。
…だがまぁ、『気』の刃なら更に切れるかもしれない」
「あ、じゃあまだ小さくなるじゃない」
「うむ。そうなのだ。
というのも、これ以上は分けられない、といったのは俺様の知覚・確認できる範囲内では、という意味なんだわ」

「じゃあ、更に分けたんだ」
「そそ。
知覚できないんなら、俺様が知覚できるようになればいい。より狭い世界を知覚する魔術を構築して、更に<分解>」
「へー。
……あれ? でもそれって、魔術を使えば際限なく知覚を上げれるって事? 原動力になるマナより小さいものって知覚できないんじゃ?」
「おぉぅ、まずマナに『大きさ』を意識できる時点で只者じゃーないなー。
…で、指摘は実に正しい。結局、魔術では限界があるんだよなー」
「あれ、あっさりと」
「しょうがなかったんで、マナを構築する〇〇〇〇(何か認識できない概念)を作用させて、それからそもそも俺様の意識自体が×××××を認識できなくなるんで、意識を細分化・投影して…」
「つまり、すごくすごく物凄く小さいものを見れるようになった」
「そう。
まぁ、そういうのをずっとずっと繰り返して、分解、知覚、認識、分解、知覚、認識…」

「んー…今、ここにエヴィル君はいるわけだけど、果てはあったの?」
「一応、な」
「一応」
「一応の果てというか、結論として、全てのものは--------に帰結する。そして\\\\\\\\によって成り立つ事を知った」
「おー、断言」
「…で。時雨君。
全てのものを構成するものと、その構成法則がわかるとだな…」
「あぁ、世界のすべてがわかる…というか、理解できる?」
「って事なんだわ。
…あの一瞬、とにかく小さく小さく、奥へ奥へ…と突き進んでいたものが、突然『全て』に繋がったんだよな」

「全一?」
「そういう言い方もあるか。
まぁ、俺様が黒魔術を修めたっていうのは、そういう過程からの派生だわ」
「なるほどねー。
……ところで、それってどのくらいで成し遂げたの?」
「3日くらいじゃないか?」
「そのくらいでどうにかなる話なの?!」
「意識が時間よりも小さくなってたからなぁ…まぁほら、すごく集中したら時間間隔がおかしくなるっていうだろ。アレだよアレ」
「そっかー」
「明確に時間計ってたわけじゃないしなぁ…。ぶっちゃけると空腹に耐えかねて部屋を出たら、作ってたスープが痛んでたんでそんなもんだろう、と」

「ふーん」
「……?
何か釈然としてない感じだな、時雨君」
「いやー、本音でいうとホントかなーって思わなくはないんだけど、エヴィル君が嘘つく理由もないし、きっと本当のことなんだろうなって思うんだけど」
「だけど?」
「もう、全てを知ってるわけだよね」
「一応」
「じゃあ、旅をする必要ってないんじゃない?」
「いや、旅をしなきゃならんのだ」
「知っているのに?」
「…まさに時雨君が言ったとおりのことでな?
俺様が言った事、知っている事は全て俺様の妄言かもしれないわけだわ。証明する術がない」
「そりゃそうだよね」
「時雨君は信じてくれるかもしれんが、信じてくれる事と真実であることを証明する事は違う。
…だからこそ俺様は俺様の持つ知識が真実であるかどうか、証明するために旅をして知らなければならんのよ。
……俺様以外の相棒と」

No.8 : Posted at 2019年10月15日 01時21分49秒 - Parmalink - (Edit)