#3:Day1(夜中)→Day2(朝) 彼らの領域(テリトリー)


「動く物」という漠然とした呼称。あてどない生き様。
寄る辺ない生き物。それでも、「彼ら」はそこに居る。
生き続けていく……。

--panpanya商業単行本既刊紹介より「動物たち」紹介文から引用

 

これは、夜中の管理棟です。あまりに迫力のある画だったので、つい撮ってしまいました。
よく高速道路のトンネルやサービスエリアであるような、オレンジ色のランプに照らされています。
しかし、この管理棟だけが例外で、キャンプ場は山の中なので、森や林の中は、漆黒の闇そのものとなります。
そして、時として、ソロキャンパーは「彼ら」と会うのです。

●巨大カエル

たぶん、湖のヌシか何かだと思うのです。あるいは道祖神の顕現した姿。
夕食を食べていて、ふと何者かの気配を感じました。明らかに生物が「居る」という感覚です。
バッと気配の方を見たら、そこに鎮座ましましていたのは、物凄い巨大なカエルでした。
多分ヒキガエル。ピョンコぴょんこ飛ぶことは一切なく、のしのっしとテントの周りをゆっくり歩きまわっておられました。(敬語)
丸々実ったトマトかリンゴか、ってくらいの大きさでした。それくらい大きいと、カエルとはいえ、気配を感じるほどの「居る」という存在感を放つのだ……と、今回知りました。
冷血動物ゆえなのか、火を怖がりません。
戦線悠々と歩くその堂々とした姿に、こちらも追い払うことが出来ず、そのお姿を眺めるだけでありましたとさ……。(昔話口調)

●アナグマ(貉=ムジナ、マミ)


夜中、水道まで水を汲みに行こうと、森を歩いていた時のことです。
暗闇に光るふたつの目。そこに確かに何か居る。ぢっとこちらを睥睨する、小型の獣。
とっさに自分は「狐か?」とも思いましたが、これは話に聞いていたアナグマであろう、と判断しました。
わたしが「ヴォウッ」と野太い声を出しても、相手はぢっと動かず、こちらを見つめたまま、逃げません。
ある種の緊張感が、わたしとアナグマの間にありました。
少しわたしが後ずさると、アナグマは森の奥へ消えていきました。
威嚇して何も良いことは無いな……と、その時直観しました。
アナグマを怖がった、というより、自分というソロキャンパーは「彼らの領域」「獣たちのテリトリー」に入り込んでいる、ただひとりの人間なのだ、ということに、改めて緊張したと申しますか。

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●夜の森の中でひとりぼっち


今回、M森林キャンプ場で宿泊している人は、自分ひとりでした。
その貸し切りっぷりに、非常にご満悦、なんたる贅沢!と思っていました。もともと完全なるソロキャン志向の自分ですもの。管理人さんも、緊急連絡先を教えて頂いた上で、夕方帰っていきました。さて、ひとりの時間を楽しく過ごしますか、自分自身と対話(醍醐味)をしよう……

ところが、夜中になるにつれ、森林の中に濃密に立ち込めてくる「彼ら(獣たち)」の存在感を、相当に意識するようになりました。正直に申しまして、少々怖いほどでした。
獣との間で、何かトラブルがあったわけではありません。単に自分自身が、慣れない自然100%の野営で、ビビっているだけということも、当時からわかっていました。
それでも、この濃密な「彼らの領域の中に居る」という感覚。
よく考えればその通りなのです。キャンプ場として切り開いたとはいえ、この山、森、林、湖は、「彼らの領域」に他ならないのです。闖入者は明らかに自分の方なのです。

元来わたくしは、ひとりぼっち、孤独というものを、まるで嫌わない人間でした。ひとりぼっちで「寂しい」と感じない、どっか壊れた人間なのです。むしろ、他人と一緒に居る時の方が、寂しさを感じてしまう人間です。
ところが今回のソロキャンプでは、寂しい、とは感じなかったものの、それ以前の根源的な「自然の中での怖さ」を感じました。
多分、社会存在たる人間の「寂しい」というものの起源は、この「自然怖い」から来ているものだ、と思うのです。今、この山の中に居るのは、自分ひとりでしかない。ソロキャンパーとして、それを選んだのは、他でもない自分です。
だから、ソロキャンパーは、所詮、自然の中のニンゲンひとり……ということを、覚悟しなくてはならない。そして彼ら……獣たちと、ひと晩共生していかねばならない。その上で、きっとソロキャンパーは自然のなかで、「自分自身との対話」が出来るのでしょう。
自身との対話をする上で必要な「静謐」とは、どこかに求めるものでなく、自分がつくっていかねばならないもの……なのかもしれません。そして、それだけの価値があるものだ、と。

結局、夜中ビビってしまったわたしは、念のため持ってきていたポータブルDVDプレイヤーで、UNISON SQUARE GARDENの2015年武道館ライヴを、音を出しながら視聴し、寝袋にくるまって寝ました。音を出しておれば大丈夫だろう、と思いまして。それに、焚き火もしっかりして、煙も焚いているので大丈夫だろう……と。


Day2 6/10(水)

就寝は、11時~AM1時(一度起きた)~朝6時30分。シュラフは夏用でぐっすり。
聞いたことのない一番鳥の声で目覚めました。



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さわやかな朝です。空気は澄み切っています。ちょっと肌寒いほどでした。
(虫対策として持ってきた長袖が、さらに役立ちました)
空気も、朝の光も透明で、木々の色が、昨日の午後と異なっています。清涼、とはこのことな色です。

今回、物質的(キャンプギア的)には、何も問題はありませんでした。
問題はむしろ、自然というものを舐めていた自分自身の精神にあるのかもしれません。
やたらに「彼ら」を怖がるのは違います。それでも、注意深くあることに越したことはありません。
それが自然の中で生きる生物の理(ことわり)です。ニンゲンという動物であっても……。

そう思えた(学べた)ことが、今回の自分にとっての経験値でした。
ほんの少しだけ、「彼らの領域」のことを知ることが出来ました。
次のキャンプで、その経験を活かしていけたら、と思います。

(キャンプ日誌6th本文おしまい。キャンプ写真館へ)

#4:キャンプ写真館 へ

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